SOLD OUT
税抜価格:¥530,000
篠原 猛史 「可視の臨界点」
https://gallery-tomo.com/now/5214/
2020年10月、京都の鴨川に突然蒼い鞄が現れた。
これだけではなんのことかわからない。なにか特別なことが起きたのか。そうではない。なんてことはない、鞄がただ鴨川に現れただけだ。しかし、鞄がそこに存在した約1時間の間で、それは道行く人の目を引き付けたり、もしくは全く気付かれなかったり、もしくは鞄という作品を連れ出している我々の顔を怪訝そうに見る人もいたし、ランニング等の運動に一生懸命な人や恋人同士の語らいに夢中の人もいた。
外の鑑賞者の分母の数は、ギャラリーの比では無い。川には人間だけでなく鷺やカラス、鳩や鵜など鴨川をいつも賑わせている自然界のレギュラーメンバーがおり、彼らは人間をとても良く見ている。我々が手にする蒼い物体が何であるかは彼らにしか解釈できない。おそらく、食べ物ではないと判断したようだ。
我々は、別に鳥に作品を見せたくて外に出たわけではない。ただ、人間だけでなく、様々なストーリーが絡み合い存在する世界で、ロケーションの意味を感じたくて作品を外に連れ出した。
篠原は、およそ20年前から持ち運びできるアートというテーマについて思考してきた。
アートは一般的に観る側、作る側の関係性で成り立っているが、とりわけ鑑賞者の体験知が重要ではないかと考える。
体験知とは、展示を空間にインストールしたらそれまでというわけではなく、様々な「場」を設定することでそれぞれにとっての関係性が変化し、よりリレーショナルなものになるという指標でもある。
この作品は作品と社会、それぞれの関係性が断絶せずに互いがもっと入っていける関係性を作れないかという篠原のベクトルの表れだ。
人も作品ももっと外に出ていって体験を共有できないか、これからの現代美術とは、発見や体験知、経験値を共有できるものが大事になってくるのではないか、バーチャルのリアリティを訴求して、結局リアリティに近づいても実現はできないのではないか、こういった思いから、このシリーズは生まれた。